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徒然 然

アニメ批評など。

『君の名は。』感想

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 『秒速5センチメートル』を観て以来,ちょっと合わないなーという感じがして新海さんの作品はしばらく避けていたんですが,『君の名は。』は潮流に押される形で観に行ってしまいました。行って良かったです。以下ネタバレを含みます。

 

  この物語のほんとうの始まりは,高校生の瀧にとっての3年前,糸守町に彗星が落下し,三葉が死亡する前日。そこで瀧は,まだその名前を知る由もない少女―三葉から,赤い糸を受け取ります。それはもちろん"運命の赤い糸"であり,同時に,命のバトンを受け取った瞬間でもありました。

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  三葉の祖母・一葉によってずいぶんと直截的に語られますが,この"糸"は本作における重要なファクターのひとつです。時は紡がれ,時間軸を外れた輪のなかに2人は導かれることになります。

 "入れ替わり"のなかで,相対せずとも,しだいにどこか打ち解け合っていく。しかしその別れは不意に訪れる。歩道橋で電話をかけるも,繋がらない。道の境界,その中空,立体として同地点にいながら,3年という時間的交錯に阻まれる2人―。

 "入れ替わり"の楽しげなストーリーからRADWIMPSの挿入歌ののちにこの展開へと繋がるわけですが,この「章立て」的構造のおかげでメリハリと見やすさがあったように思います。

 ここから先,瀧が真相を知ってからは急転直下でスケールの大きな話になっていくわけですが,このあたりから感動の波が徐々に立ちはじめ,それが各シークエンスごとに打ち寄せてきます。

 "糸"によって生と死の狭間は紡がれ,誰そ彼時,そのへりで2人はついに出会うこととなる。三葉の手に自分の名前を書かず,ただ「すきです」と書く瀧。名前を書いたら日記のように消えてしまうかもしれない。でも,「すき」という想いなら消えない―。

 ここで"バトン"は三葉に再び託され,彼女自身を含め,多くの命を助けることになります。

 

 それから4年後。手中には何も残っていなくても,胸中に残る何か。4年前とは違い,別々の車両に乗り,別々の道へと向かおうとしていた2人。それを繋ぎ留めたのは,4年前に確かに結ばれた赤い糸だったのでしょう。階段を「上る」"都会"に住んでいた瀧,階段を「下る」"田舎"に住んでいた三葉。かつてとは違い,そこには三葉を知った瀧がいて,瀧によって救われた三葉がいる。振り返り,言葉を交わす。そして尋ねる―「君の名は。」。

 

 『秒速5センチメートル』を観る限り,文学性は高くてもエンタメ成分が排除され切っていて,万人受けする作風ではないかなという印象が強くありました。それが本作ではガラリと変わって,美しい美術背景とそれによる繊細な心情描写は受け継がれつつ,エンタメ的なところも十分に補填され,全体として良い意味で「見やすく」なっていたのではないかなと感じました。

 ネタバレ前提のこの記事で書くことではありませんが,「新海誠」という名前にちょっと敬遠しがちな方にこそぜひ観てほしい傑作なんじゃないかなと個人的には思います。