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徒然 然

アニメ批評など。

『紅殻のパンドラ』感想―彼女が,彼女に出会う物語

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攻殻機動隊』で知られる士郎正宗氏が原作と聞いて,SFファンとして大いに期待を寄せていた本作ですが,その期待を裏切らないとても良い作品でした。

 

 全身義体の少女・七転福音。セナンクル島を訪れた彼女が,科学者ウザル・デリラによって製造された戦闘型アンドロイド・クラリオンと出会うところから物語は始まります。

 「世界平和」を夢に掲げ,これまで積極的に人助けをしてきた福音。クラリオンによって「パンドーラ・デバイス」という力を得た彼女は,その力を使うべきかどうか思い悩んでいました。それは第5話における福音とクラリオンとのやり取りにも表れています。

「何か失敗か?パンドーラ・デバイスの機能で人々はみな楽しんでいた。」

「それは……そうだけど……。」

「これは福音が望む世界平和につながる一歩とは違うのか?」

「やっぱり,良くないと思う。だって,あの力はクラりんのものだし……。」

クラリオンは福音のものだ。」

「他人の力を自分のために使うのはずるいよね。」

「ずるい?公正でないという意味か?」

「うん。」

「世界平和は福音一人で成し遂げることができるのか?」

「え?」

「他人の力は不正か?元から福音のものなら公正?最初から福音のものはどこからどこまでだ?」

「……うん,そっか。全部,わたしのじゃないや。」

「……。」

「わたしは『わたし』をもらったの。お父さんやお母さんじゃないみんなから。だからわたし,ちょっとだけずるいんだよ。」

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 そんな福音の考えのターニング・ポイントとなるのが,同じく第5話のアンナの一件です。通信障害で連絡も取れない危機的状況のなか,福音はアンナを救うためついにパンドーラ・デバイスを使うことを決意します。そのおかげでアンナを救うことができた福音は,これ以後,クラりんに対する想いがより一層強く,強固なものになっていきます。

 

 一方で,クラリオンの福音に対する想いが変化するのが第8話です。炎上するビルに取り残された男の子を発見し,助けに向かおうとする福音。それに対し,クラリオンは合理的な判断に基づき福音を制止します。しかし,福音はクラリオンに差し伸ばされたその手を振り切り,救出へと向かいます。

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 人工呼吸で男の子に酸素を提供するあまり,危機的状況の陥る福音。そこに助けに現れたのがクラリオンでした。無謀と理解しながら,自らの耳を焦がしながらの救出は,単に「福音を救わなければならない」というプログラム的義務感ではなく,福音の意志をたしかに尊重し,そして福音を想っての行動であるように感じられました。

 

 こうしたエピソードを経て,彼女たちのバディとしての絆は,ほかの何事にも代えがたく強く,確かなものになっていきます。

 

 そして最終話。暴走したブエルを止めるため,そして何よりも福音を守るため,自らが犠牲になろうとするクラリオン。そんなクラリオンを,「そんな方法で守ってもらったって,私ちっとも嬉しくなんかないよ!」と制止する福音。一方で,ウザルが提案した「さらに危険な賭け」に乗ろうとする福音を,「初めてウザルの命令に逆らって」阻止しようとするクラリオン。そんなクラリオンに対して,福音はこう語りかけます。

「大丈夫だよ,クラりん。」

「もう忘れた?私,クラりんと二人なら,どんなことでもできるから!」

「だから,力を貸して!……絶対に戻ってくるから!」 

  クラりんの力を借りることに引け目を感じていた福音。福音が危険にさらされることを避け,合理的な判断に徹底していたクラリオン。そんな彼女たちが,お互いのことを心から信用しあったからこそ,「二人の力で」立ち向かうことができるようになったのです。

「クラりんのほしいもの,はやく見つかるといいね!」

「……もう見つけた。」 

 

  重厚なSF設定と,そんなものとはまったく関係なく,『彼女が,彼女に出会う物語』。やたらと硬くして「それっぽく」振る舞う薄っぺらいSFに疲れた方にオススメの,ハートフルでキュートで心温まるSF作品です。

 

 そもそもの企画の都合上,コミックスに追いつき追い越しての最終回となりました。しかしながら,どうやらコミックスもまだ終わるわけではないようですし,今後もこのバディの活躍が見れると思うと待ち遠しくてなりません。あわよくばアニメ2期にも期待を寄せつつ……。