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徒然 然

アニメ批評など。

『僕だけがいない街』感想

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 ここ何クールかいまいちパッとしなかったノイタミナですが,久々に人口に膾炙した作品といえるのではないでしょうか。以下感想と考察,ネタバレを多分に含むので注意。なお,メディアミックス作品でもありますので念のため,この記事はアニメについてのものであることをはじめにお断りさせていただきます。原作は未読,映画も未視聴です。

 ざっくりと「脚本」と「演出」の2軸に分けて書いていきます。

 

1. 脚本

 「脚本」とはいえ漫画原作であってアニメオリジナル作品ではないわけですから,主にシリーズ構成面の話になります。

 個人的にタイムリープものは終話でいまいち腑に落ちてこない作品が多い印象があるのですが,本作に関してはある程度まとまりのあるものになっていたのではないかと思います。悟が眠っていた15年間,「僕だけがいない街」―それこそが悟の「宝物」だったのだ,というタイトル回収は美しいものでした。

 しかしながら,最終話の先生の行動について,いかんせん説明不足の感が否めませんでした。

 「説明不足」といっても,それは「言葉による説明」を指しているわけではありません。むしろ言葉による説明は適切な量で,あれ以上細かくしてしまえばただただくどくなるだけでしょう。

 問題としているのは「映像による説明」,言い換えれば「心理描写」です。次々と犯行を阻止された八代にとって「敵」であるはずだった悟が,15年間の「僕だけがいない街」を見るともなく見るなかで,徐々に,そしていつしか「支え」であり「なくてはならない存在」へと変化していく―。あるいは,西園姓になった八代にとってこの15年間は「悟のいない街」であると同時に「八代のいない街」であって,自らが犯罪に手を染めることがなかったタイムラインを見ているような,そしてそれが悟によって創りだされたものであるかのような,理解しがたくも事実として目の前に広がっている感覚―。この繊細な心理を掘り起こすには,「ミステリ」であることを考えても,あの最終話では表現として不十分だったと言わざるを得ないでしょう。あれを見てBLまがいの何か(杉田広美が被害者になっている時点で八代にその気がないとは言い切れないが,悟に対する感情はあくまでもそれとは別軸のもの)と勘違いされてしまってもそれは致し方ないことです。

 私の周辺の原作を読んだ人の評を聞く限り,原作ではもう少し厚い心理描写がなされていたようですが,それを尺の都合で切り捨ててしまったのは間違いなく失敗でしょう。構成として最終話のエピソードを1話にまとめたくなるのはわかりますが,そこは何かしらの工夫がほしいところでした。特にOPをカットしなかったことについては強い疑問が残ります。

 

2.演出

 アニメ化に際し,まず最初に話題になったのは,主人公・藤沼悟役に俳優を起用したことでした。より自然味に溢れているという点で監督の判断にも一理あることは確かですが,私としてはあえてそこまでしなければならない演出上の必然性のようなものは感じられませんでした。むしろ,叫びの場面において「棒」になってしまっていることに気を取られてしまうことが少なくなかったように思います。

 悟の声に関することでいえば,タイムスリップ中において,幼少期の悟とその内心とで演者を分けたのは非常に巧い演出でした。特に第11話において,語りを幼少期の悟がすることで「記憶が失われている」ことを直截的に示したのには唸らされました。こういった点こそがアニメの強みであり,メディアの違いを活かしているといえます。

 その一方で,アニメの弱点が露呈してしまった点もありました。第5話において,市議会議員の西園が初めて登場しましたが,その声があまりにも八代学と酷似してしまっていたのです。EDのキャストでは「大泉一平」となってはいたものの,それが架空の人物であり,実際には八代学と同じ宮本充さんが演じていることは明白だったといえるでしょう。もちろんこれは宮本充さんを批難しているわけではありません。多少の違和感は生まれるかもしれませんが,あくまでも「ミステリ」であることを尊重し,ここは思い切って別の声優に演じさせるべきところでした。

 

 総合的にみて良質な作品ではありましたが,原作未読者としては「原作のほうがいい出来なんじゃないか」と単純に思ってしまう域を出ませんでしたし,かと言ってすべての結末がわかったうえでさらに原作を購入して読む意欲があるかと訊かれれば個人的にはノーです。

 近年の動向・今後のラインナップを見るに,ノイタミナは「良質な原作をアニメ化する」という方向性で動いているように見えますが,それであればメディアの違いを最大限に活かしたものを作り出していってほしいものです。忠実に沿う,あるいは「気を遣う」程度では面白味がありません。せっかく映像化するのですから,「攻めた」作品に期待したいところです。

 余談ですが,私としては,ノイタミナには「良質なアニメオリジナル作品」を是非とも追求していっていただければと思わないことも……。

 

 

 

僕だけがいない街 コミック 1-7巻セット

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