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徒然 然

アニメ批評など。

【ネタバレあり】『バケモノの子』感想―バケモノと人間の「絆」

 先日,遅ればせながら『バケモノの子』を観ました。私は普段あまり映画を観ない人間なので,映画としてというよりはアニメとしての感想になるかと思います。以下ネタバレ注意です。

 

 『サマーウォーズ』『おおかみこどもの雨と雪』で家族愛,ないしは親子愛を描いてきた細田守監督ですが,今作もその例にもれず「親子の絆」が主軸であり,それは公式の宣伝文句にもみられるとおりです。ただ,これまでの作品のような密な親子愛というよりも,より普遍的な「絆」そのものがテーマとして据えられているのかなという印象は受けました。

 

 物語序盤の舞台となるのは「渋天街」と呼ばれるバケモノの世界です。『千と千尋の神隠し』などにみられるような,異世界での主人公の精神的成長を描く物語なのかなと思いきや,中盤以降は人間たちの住む渋谷という新たな軸が生まれます。「一方通行」のイメージが強い異世界モノにおいて,バケモノ界と人間界の往来が自由な世界観は良い意味で予想を裏切られました。

 

 その中盤以降においてようやくヒロインというポジショニングで楓が登場しますが,それも青春だとか恋愛だとかが全面に押し出されるというわけではなく,そういったものが根底に存在しながらもあくまで主軸となっているのは「絆」です。熊徹との間で泥臭い親子の絆が育まれ,楓との間で甘酸っぱい恋心の萌芽としての絆が生まれ,バケモノと人間の両側面から主人公の精神的成長が描かれていきます。

 

 物語終盤にかけて「心の闇」という抽象的な概念がストーリー上の軸となり,メルヴィルの『白鯨』がキーとして扱われるために,衒学的な色がやや濃くなってくるのですが,私としてはそこまで深読みする必要はないのかなと感じます。むしろ,「絆の力は心の闇に勝つ」という,ある種の勧善懲悪的な,ヒロイックで単純明快な物語として捉えるのが妥当なのではないでしょうか。

 

 ただ,そういう「わかりやすい」ストーリーであるにもかかわらず,というか,それゆえなのかもしれませんが,全体をとおしていまいちカタルシスに欠いている印象は拭えませんでした。『おおかみこどもの雨と雪』のように,感動ではなく力強く生きる姿を描いているということが明確であればそれはそれでいいと思うのですが,本作は終盤において明らかに「泣かせようとする」カットないしは展開があったにもかかわらず,そこに至るまでの積み立てが弱く,結果として爽やかでも湿っぽくもない,どっちつかずな視聴後感にならざるを得ませんでした。感動を押し出していきたいのであればもっと熊徹との関係を深く掘り下げておくべきだったように思えます(とはいえ,単純にこれ以上上映時間を延ばすべきかといえば答えはノーです)。

 

 また,「心の闇」についてももう少し説明が欲しかったところではありますし,なによりも一郎彦が終始「悪役のための悪役」でしかなかったのが残念に思えます。キャラクターとしての掘り下げが皆無に等しかったですし,解決後も彼が救済されたとは言い難く,なんとなくしこりの残っている感覚が消えませんでした。

 

 総じて,細田守監督作品としてはいまいちインパクトが薄く,個人的には手放しで他人に薦められるような作品ではありませんでした。良作なのは間違いありませんし,あるいは期待が大きすぎたのかもしれませんが,次回作はより素晴らしいものであることを一ファンとして願いたいと思います。

 

バケモノの子 オフィシャルガイド

バケモノの子 オフィシャルガイド